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■ 横 山


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 八幡さまのたつ宮町(みやまち)の丘を横山という。

 いつの世とも知れない、遠い昔のことだ。
 区界(くざかい)の兜明神岳から流れだして宮古の海にそそぐ閉伊川に、大きな洪水が起きた。
 そのとき、上流から小さな山のひとつが流れだした。
 宮古までただよってきて、浅瀬にひっかかった。
 西から東に流れる閉伊川に、南北に横たわったものだから、横山と呼ばれるようになった。
 そんな話がある。


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# by miyako_monogatari | 2009-02-09 08:39

■ 狸の女


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 これは大正時代に実際にあった話だ
                (佐々木喜善「聴耳草子」)

 ――宮古の山のなかでのこと。
 爺さまと若者ふたりが、鉄道の枕木をつくるために小屋がけしていた。
 ある夜、年ごろの女がやってきた。
 「岩泉さ行ぐのに、迷ってしまってす。
 一晩泊めでけどがんせ」
 はて妙な?
 こんな夜なか、こんな山のなかに、こんな姐(あね)さまが迷いこんでくるとは。
 それに、いくら迷ったといって、岩泉へ行くのに、ここに来るわけがない……
 爺さまは不審がりながらも、「ほかさ行け」とも言えないので、小屋に入れてやった。
 「あぁ、ほに寒(さん)びぃ」
 そう言って女は焚き火にあたる。
 若者たちは火のそばにゴロンと寝ころんで、たがいに相手の寝息をうかがっている。
 「あぁ寒びぃ寒びぃ」
 ますます火もとへ擦りよるふりをしながら、女は若者たちのからだに、ちょいちょい触れる。
 そして、赤い腰巻を出したり、白い脛(はぎ)を出したり、なにげなくだんだんと足の奥をのぞかせたりして若者の気を引く。
 爺さまからは、その一部始終がよく見えた。
 いよいよ変だ。
 そう思っていると、初めはちらちら見えていただけだった足の奥が、火の温(ぬく)みにあって、ホウッと大きなあくびをした。
 さては!
 爺さまはうなずいて静かに起き上がった。
 「姐さま、寒ぶいべ。
 これでも着とがんせ」
 そう言いながら、空き俵を女の頭からかぶせると、いきなり押さえつけた。
 薪をとってガンガンぶった。
 いままで寝たふりをしていた若者たちは驚いた。
 「これは畜生だ!
 早くぶち殺せ!」
 爺さまは、そう言って、さらにガンガンぶったたく。
 女は空き俵のなかで苦しがって獣の鳴き声を出した。
 そこで若者たちも初めて女が人間ではないということがわかったので、爺さまといっしょに木や鉈(なた)で叩きふせた。
 女は、二匹の狸が首乗りに重なりあって化けていたのだった。

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# by miyako_monogatari | 2009-02-09 06:28

■ 狸の旦那


■ 狸の旦那_a0115014_4531093.jpg

 これはあまり古い話ではない
 大正時代に実際にあった話だ  (佐々木喜善「聴耳草子」)

 ――宮古町のぜえご(在郷)の山中、家が五軒ばかりの小さな集落でのことです。
 ある家で婚礼がありました。
 ところが、大家の旦那が宮古町に行ったきり帰ってきません。
 式が始められないので、集まった人たちがヤキモキと気をもんでいました。
 表で犬がけたたましく吠えました。
 と思ったら、そこへ待ちに待った大家の旦那が、目の色を変え、戸を蹴破るようにして入ってきました。
 「やれやれ、申すわけがながった。
 さぁさ、早ぐ式を挙げっぺす。
 さぁさ」
 そう言いながら、膳にむかって、ご馳走を食いちらかしはじめたのです。

■ 狸の旦那_a0115014_513258.jpg

 家の人たちや、集まった人たちはみんな思いました。
 「旦那は、こんな人でぁながったが。
 今夜は酒に酔ってんだぁべな」
 そうして、だれも、なんとも言いませんでした。
 式がすんだので、家の人たちは言いました。
 「旦那、今夜はゆっくりやすんでってけどがんせや」
 大家の旦那は、
 「いやいや。
 明日は山林の売買があってな。
 朝はやぐ宮古さ行がねばなんねえ。
 これで帰っから」
 そう言って、あわくたと玄関を出ようとします。
 とたんに、また犬どもが猛烈に吠えかかりました。
 大家の旦那は、
 「ぎゃぁっ!」
 と叫んで、床下に逃げこんでしまいました。
 見送りに出た人たちは口ぐちに言いあいました。
 「こりゃあ旦那じゃねえ」
 「どうりで。
 さっきがら様子が変だったぁが」
 そうして、それやッとばかりに犬どもを床下へけしかけました。
 そこへやっと、ほんものの大家の旦那が駆けつけてきました。
 床下では、しばらくのあいだ、犬となにものかが、噛みあい、もみあう気配がしていました。
 やがて、ずるずると犬に引っぱりだされたのは、それはそれは大きな古狸でした。                 (意訳)

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# by miyako_monogatari | 2009-02-08 21:35

■ 腹帯ノ淵


■ 腹帯ノ淵_a0115014_2113997.jpg

 「遠野物語」の石臼の話に、閉伊川の原台ノ淵というのが出てくる。
 これは、腹帯(はらたい)ノ淵のことだろう。
 腹帯は、新里(にいさと)の大字で、閉伊川に沿っている。
 ハラタイの由来には、大きな淵を表わす、ハッタラというアイヌ語によるという説がある。
 また、佐々木四郎高綱という源氏の武将の一族郎党が、この地に滞在したとき、佐々木なにがしの妻がみごもって、着帯の慶事をおこなったためという言い伝えもある。
 「着帯の慶事」というのは、妊娠五ヵ月目の吉日に、妊婦が腹帯(はらおび)を締める祝いごと。
 この腹帯が土地の名になり、ハラタイと読まれるようになったというのだ。
 ハラタイの由来はさておき、腹帯ノ淵には、こんな話がある。
 「遠野物語拾遺」34から意訳してみよう。

 ――閉伊川の流域に、腹帯ノ淵というところがある。
 むかし、この淵の近所の家で、一度に三人もの急病人ができた。
 すると、どこからか、ひとりの老婆があらわれて言った。
 「病人が出たのは、二、三日前に、庭先で小さな蛇を殺したからだ」
 家の人も心当たりがあるので、詳しくわけを聞いた。
 「その小さな蛇は、淵の三代目の主が、この家の三番目の娘を、嫁に欲しくて遣わした使者だ。
 だから、その娘は、どうしても水のものに取られる」
 娘は、これを聞くと驚いて病気になった。
 いっぽう、家族の者は三人とも病気が治った。
 娘のほうは医者の薬も効きめがない。
 約束事だったとみえて、とうとう死んでしまった。
 「どうせ淵の主のところへ嫁に行くものならば」
 と、家の人たちは、夜のうちに娘の死骸をひそかに淵のかたわらに埋めた。
 そうして、いつわりの棺(ひつぎ)で葬式を済ませた。
 一日置いて淵のかたわらへ行ってみると、もう娘のしかばねはそこになかった。
 そんなことがあってからは、娘の死んだ日には、たとえ三粒でも雨が降ると伝えられる。
 村の人たちも遠慮して、この日は子どもにも水浴びなどさせないということだ。


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# by miyako_monogatari | 2009-02-08 19:59

■ 小さな石臼

■ 小さな石臼_a0115014_7151448.jpg

   早池峰より出(い)でて東北の方
   宮古の海に流れ入る川を閉伊川という
   その流域はすなわち下閉伊郡なり    「遠野物語」27


 ――遠野の町なかに、いまは池ノ端という家がある。
 その先代の主人が宮古へ行って帰る途中のことだ。
 閉伊川の原台(はらだい)ノ淵というあたりを通った。
 ひとりの若い女がいて、一通の手紙を主人に託した。
 「遠野の町の後ろの物見山の中腹に、沼があります。
 手を叩くと宛て名の人が出てきますから、どうぞ渡してください」
 先代の主人、請け合いはしたけれど、道みち気になって、
 「はて、どうしたものか……」
 と思案に暮れていた。
 ひとりの旅の僧に行き会った。
 主人は僧に、ことのしだいを話した。
 旅の僧は手紙を開いて読むと、
 「これを持ってゆけば、おまえの身に大きな災いがあるだろう。
 だから、書きかえてあげよう」
 そう言って手紙を書いてくれた。
 その手紙を持って物見山の沼へ行った。
 教えられたように手を叩いたところ、若い女が出てきた。
 手紙を受けとると女は、
 「お礼です」
 と言って、てのひらに載る、小さな石臼をくれた。
 それは、米を一粒いれて回せば、下から黄金が出てくる石臼だった。
 この宝物の力で家は少しずつ裕福になった。
 ところが、あるとき欲の深い妻が一度にたくさんの米をつかみいれた。
 すると、石臼は、しきりにみずから回った。
 ついに、朝ごとに主人が石臼に供えていた水が溜まった小さな窪みに滑り落ちて、見えなくなってしまった。
 その水溜まりは、のちに池になり、いまも家のかたわらにある。
 家の名を池ノ端というのも、そのためだ。
                          (意訳)


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# by miyako_monogatari | 2009-02-08 18:52