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■ 煙突山の沼


■ 煙突山の沼_a0115014_4473570.jpg

 ラサの煙突の下には、沼が、ふたつある。
 ひとつは青沼。
 青く澄んでいる。
 もうひとつは赤沼。
 赤茶色に濁っている。
 沼には、それぞれ河童が住んでいる。
 その河童も沼が凍る冬には出てこない。
 スケートのうまい子は、そこで滑っている――
 だれに聞いたのか、そんな噂を知っていた。
 田んぼのスケートにあきたらなくなって、ある日、沼を探しにでかけた。
 凍(い)てついた南町の田んぼを突っきり、宮高のグラウンドも突っきって、八幡土手を登った。
 ゆらゆら揺れる吊り橋を渡った。
 小山田の土手を越え、そびえたつ精錬所の大煙突を見上げ見上げしながら、細い山道をたどった。
 たぶん、煙突の西がわだ。
 東がわだとラサの構内を抜けなければならない。
 とにかく山の上にのびる道をみつけ、分かれ道を、あっちへ行ったり、こっちに来たり。
 そのうち山かげに沼をみつけた。
 青沼なのか赤沼なのか、はっきりはわからない。
 でも、なんとなく、青沼だと思った。
 凍った沼は、冬の空の色を映して、白く見えた。
 人っ子ひとりいない。
 氷をたしかめると乗っても大丈夫そうだ。
 長靴にスケートをつけて滑った。
 へたくそで何度も尻餅をつく。
 靴スケートも、しょっちゅうはずれる。
 日暮れの気配に気づいて、あたりを見まわした。
 薄く曇った空のむこうに日がかたむき、沼はもう山の影におおわれている。
 冬は出ないはずの河童が、氷の下から出てきそうな気がした。
 靴スケートを手に、なにかにせかされるように山道をくだった。
 ふと立ち止まって、うしろをふり返った。
 沼は見えない。
 かわりに、夕暮れの空を黒く限った山の上に、点てんと細長い影が見えた。
 それは、いくつも並んだ、墓石だった。


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by miyako_monogatari | 2009-02-08 11:09
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