■ 一本杉の天狗


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 黒森さんのてっぺんに、一本杉がたっている。
 その一本杉のてっぺんに、天狗がひとりで住んでいる。
 ――えっ?
 ひとりはおかしいって?
 人間じゃないんだから?
 なぁに、ひとりでも一匹でも一頭でも、なんでもいいんだ。
 天狗だから、なんなら一天と呼んだっていいんだ。
 まあ、いまはいちおう、ひとりにしておこう。
 とにかく、黒森さんの一本杉には、天狗がひとりで住んでいるんだ。
 えっ?
 見たことない?
 そりゃあ、そうかもしれない。
 天狗は、なかなか人には見えるもんじゃあないんだ。
 でも、見える人もいる。
 いつもは見えない人でも、なにかのひょうしに見えるときがあるんだ。
 こんど、黒森さんの上の空のあたりを、よぉ~く見てごらん。
 で、黒森さんの一本杉に住む天狗は――
 えっ?
 なになに?
 名前はなんだって?
 天狗は天狗さ。
 名前はないんだ。
 なにしろ、黒森さんにほかの天狗はいないんだからね。
 ひとりなんだから。
 呼びわける必要もないんだから。
 えっ?
 それじゃあ寂しいって?
 なにか名前をつけようって?
 いやいや、待てよ……
 そういえばあったぞ、名前が!
 テン・グウとか、天狗のグウとか……
 変だって?
 なに、天狗にしてみたら、人間の名前のほうが、よっぽど変だ。
 だから、おたがいさまさ。
 とにかく、もう人の話の腰をおらずに、静かにお聞きなさい。
 いいかな。
 そうそう、天狗の名前の話だ。
 黒森さんの一本杉に住む天狗はな、昼寝が大好きだった。
 高い高い、天までとどきそうに高い杉の木のてっぺんで、ぐうぐう昼寝をするのが好きだった。
 だから、天狗のグウだ。
 一本杉の下にいったら、空からぐうぐう寝息が降ってくるかもしれない。
 そうしたら見上げてごらん。
 なにも見えないのに、天からぐうぐう聞こえたら――
 それはきっと、天狗のグウだ。


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by miyako_monogatari | 2009-03-02 14:05
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