■ 海の亡霊


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 海にも亡霊(ぼうれい、もうれい)が出る。
 亡霊船といって、多くは船に乗った亡霊だ。
 幽霊船とか船幽霊、船亡者、亡者船などともいう。
 船も当然この世のものではない。
 お盆に泳ぎにいくと、亡者に海へ引きずりこまれる。
 あるいは、海の上から、だれかが声をかけてくる。
 これも、船に乗ってはいないけれど、亡霊船とおなじだ。
 「お盆に漁に出ると亡霊船にあう」
 そんな古老の口ぐせを笑って若い漁師がサッパを出した。
 サッパは磯漁に使う小舟だ。
 雲行きがあやしくなったと思ったら亡霊船があらわれた。
 サッパをこいでいたら、ガスといって濃い霧につつまれた。
 そんななか、気がつくと、いつのまにか、このへんでは見かけたこともない男の乗ったサッパがそばにいた。
 それが亡霊船だったという話もある。
 「ヒシャク(柄杓)を貸せ」
 たいがいは、そういってせがまれる。
 シャクシ(杓子)やエナガ(柄長)ということもある。
 どれもおなじで、アカ(淦)という、船にたまった海水をかきだすための、柄のついた桶だ。
 亡霊船にいったんこれを渡すと、必ず自分の船に海水を汲みいれられる。
 沈没するまでやめない。
 そんなときのために底の抜けたヒシャクを用意しておく。
 あるいは貸すときには必ずヒシャクの底を抜いて渡す。
 また、海の上で助けを求めてくる声に、うっかりこたえてはだめだ。
 返事をすると必ず海に引きずりこまれる。
 船幽霊にあったら口をつぐんでとりあわない。
 反対に、とにかくなにか返事をしないと海に引きずりこまれるという話もある。
 これをトモ呼ビという。
 海の亡霊は餓鬼だという話もある。
 餓鬼は、いつも腹をすかしている。
 だから、お握りをやる。
 味噌をといて海に流してやってもいい。
 そうすれば退散することが多い。 
 亡霊船は、海で死んで遺体が沈んだ、文字どおり浮かばれない人の亡魂だ。
 海の亡魂は波間をさまよう。
 クラゲのすがたをとることが多い。
 人に出会うと、さまざまなかたちで祟(たた)る。
 江戸時代に菅江真澄という旅の好きな学者がいた。
 気仙沼へきて、船の上でこんな亡霊船の話を聞いている。
 沖でカツオをとっていたら、おおぜいの乗った船が近づいてきた。
 「そっちに乗せてくれ」
 そういって、つぎつぎ乗りうつってくる。
 これは亡霊船にちがいないと漁師たちは思った。
 飛び乗ってくるものの頭を押さえては、ナマというところにどんどん押しこんだ。
 夜が明けるのを待ってナマの板子をあけてみた。
 すると、いくつもクラゲだけが入っている。
 「クラゲは化けるのか」
 ひとりがそういうと、ひとりが応じた。
 「クラゲは風にさからって走るから、化けるようなこともあるだろう」――
 ナマというのは板子の下の空間で、とった魚を入れておく。
 ホトケといって水死体をひきあげると、ここに入れることもある。
 クラゲが亡霊に化けるのか、亡霊がクラゲになるのかはともかく、
 「クラゲの多くなるお盆には、気をつけることだ」
 それが古老の口ぐせだ。


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by miyako_monogatari | 2009-02-21 14:26
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