■ ニーロンとアズミ


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 遠いとおい昔のことです。
 屏風のように切りたった山のふもとに、ワックツという奥ぶかくて大きな洞窟がありました。
 そこに、ウレイラという、エミシの一族が住んでいました。
 ウレイラの長(おさ)には、ニーロンという娘がいました。
 秋の終わりには夫を選ぶ年になっていました。
 その秋も間近いころ、ウレイラの穏やかな暮らしが破られます。
 タムラマロに追われた、ホルケウの一族が逃げてきたのです。
 タムラマロは、ヤマトという遠い国の武将です。
 ヤマトの王に命じられて、このあたりに大昔から住んでいたエミシを支配しようとやってきました。
 ホルケウはワックツのそばに砦を築きます。
 タムラマロを迎え撃つ準備です。
 ウレイラは騒然となりました。
 ワックツで静かに暮らしていればタムラマロも手を出しません。
 ホルケウはウレイラに、ともに戦ってくれと望みました。
 ウレイラは、逆に、ホルケウに出ていってくれるように言いました。
 ホルケウは、なかなか出ていこうとはしません。
 そんななかでした、ニーロンがアズミと出会ったのは。
 アズミはホルケウの長の息子です。
 ふたりは、たがいに一目で相手を好きになりました。
 そのうちタムラマロの軍勢がやってきます。
 ホルケウは果敢に戦いました。
 それでも、多勢に無勢、すぐに追いつめられました。
 いよいよ最後というときは、背後の山と砦に火を放って逃げだすことにしていました。
 炎はワックツをも襲います。
 火がつけられたとき、アズミはニーロンに知らせようとしました。
 けれど、火のまわりは速く、アズミは炎に行くてをふさがれます。
 後ろからも火が迫り、引きかえすこともできません。
 アズミは、ニーロンの名をよびながら、青い湖に身を投げました。
 火に気づいたニーロンも、アズミを探しまわりました。
 アズミのすがたは、どこにもありません。
 アズミの名をよびつづけるニーロンのすがたも、炎と煙に巻かれ、やがて消えてしまいました。
 ウレイラやホルケウの一族がその後どうなったか、知るよしもありません。
 それでも、この話が宮古のあたりにも伝わっているのは、きっとウレイラの里びとが洞窟の奥ふかくに身をひそめて生きのびたからにちがいない、ということです。


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by miyako_monogatari | 2009-02-10 21:30
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