■ 狸の女


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 これは大正時代に実際にあった話だ
                (佐々木喜善「聴耳草子」)

 ――宮古の山のなかでのこと。
 爺さまと若者ふたりが、鉄道の枕木をつくるために小屋がけしていた。
 ある夜、年ごろの女がやってきた。
 「岩泉さ行ぐのに、迷ってしまってす。
 一晩泊めでけどがんせ」
 はて妙な?
 こんな夜なか、こんな山のなかに、こんな姐(あね)さまが迷いこんでくるとは。
 それに、いくら迷ったといって、岩泉へ行くのに、ここに来るわけがない……
 爺さまは不審がりながらも、「ほかさ行け」とも言えないので、小屋に入れてやった。
 「あぁ、ほに寒(さん)びぃ」
 そう言って女は焚き火にあたる。
 若者たちは火のそばにゴロンと寝ころんで、たがいに相手の寝息をうかがっている。
 「あぁ寒びぃ寒びぃ」
 ますます火もとへ擦りよるふりをしながら、女は若者たちのからだに、ちょいちょい触れる。
 そして、赤い腰巻を出したり、白い脛(はぎ)を出したり、なにげなくだんだんと足の奥をのぞかせたりして若者の気を引く。
 爺さまからは、その一部始終がよく見えた。
 いよいよ変だ。
 そう思っていると、初めはちらちら見えていただけだった足の奥が、火の温(ぬく)みにあって、ホウッと大きなあくびをした。
 さては!
 爺さまはうなずいて静かに起き上がった。
 「姐さま、寒ぶいべ。
 これでも着とがんせ」
 そう言いながら、空き俵を女の頭からかぶせると、いきなり押さえつけた。
 薪をとってガンガンぶった。
 いままで寝たふりをしていた若者たちは驚いた。
 「これは畜生だ!
 早くぶち殺せ!」
 爺さまは、そう言って、さらにガンガンぶったたく。
 女は空き俵のなかで苦しがって獣の鳴き声を出した。
 そこで若者たちも初めて女が人間ではないということがわかったので、爺さまといっしょに木や鉈(なた)で叩きふせた。
 女は、二匹の狸が首乗りに重なりあって化けていたのだった。

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by miyako_monogatari | 2009-02-09 06:28
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