■ 狸の旦那


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 これはあまり古い話ではない
 大正時代に実際にあった話だ  (佐々木喜善「聴耳草子」)

 ――宮古町のぜえご(在郷)の山中、家が五軒ばかりの小さな集落でのことです。
 ある家で婚礼がありました。
 ところが、大家の旦那が宮古町に行ったきり帰ってきません。
 式が始められないので、集まった人たちがヤキモキと気をもんでいました。
 表で犬がけたたましく吠えました。
 と思ったら、そこへ待ちに待った大家の旦那が、目の色を変え、戸を蹴破るようにして入ってきました。
 「やれやれ、申すわけがながった。
 さぁさ、早ぐ式を挙げっぺす。
 さぁさ」
 そう言いながら、膳にむかって、ご馳走を食いちらかしはじめたのです。

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 家の人たちや、集まった人たちはみんな思いました。
 「旦那は、こんな人でぁながったが。
 今夜は酒に酔ってんだぁべな」
 そうして、だれも、なんとも言いませんでした。
 式がすんだので、家の人たちは言いました。
 「旦那、今夜はゆっくりやすんでってけどがんせや」
 大家の旦那は、
 「いやいや。
 明日は山林の売買があってな。
 朝はやぐ宮古さ行がねばなんねえ。
 これで帰っから」
 そう言って、あわくたと玄関を出ようとします。
 とたんに、また犬どもが猛烈に吠えかかりました。
 大家の旦那は、
 「ぎゃぁっ!」
 と叫んで、床下に逃げこんでしまいました。
 見送りに出た人たちは口ぐちに言いあいました。
 「こりゃあ旦那じゃねえ」
 「どうりで。
 さっきがら様子が変だったぁが」
 そうして、それやッとばかりに犬どもを床下へけしかけました。
 そこへやっと、ほんものの大家の旦那が駆けつけてきました。
 床下では、しばらくのあいだ、犬となにものかが、噛みあい、もみあう気配がしていました。
 やがて、ずるずると犬に引っぱりだされたのは、それはそれは大きな古狸でした。                 (意訳)

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by miyako_monogatari | 2009-02-08 21:35
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