■ 小さな石臼

a0115014_7151448.jpg

   早池峰より出(い)でて東北の方
   宮古の海に流れ入る川を閉伊川という
   その流域はすなわち下閉伊郡なり    「遠野物語」27


 ――遠野の町なかに、いまは池ノ端という家がある。
 その先代の主人が宮古へ行って帰る途中のことだ。
 閉伊川の原台(はらだい)ノ淵というあたりを通った。
 ひとりの若い女がいて、一通の手紙を主人に託した。
 「遠野の町の後ろの物見山の中腹に、沼があります。
 手を叩くと宛て名の人が出てきますから、どうぞ渡してください」
 先代の主人、請け合いはしたけれど、道みち気になって、
 「はて、どうしたものか……」
 と思案に暮れていた。
 ひとりの旅の僧に行き会った。
 主人は僧に、ことのしだいを話した。
 旅の僧は手紙を開いて読むと、
 「これを持ってゆけば、おまえの身に大きな災いがあるだろう。
 だから、書きかえてあげよう」
 そう言って手紙を書いてくれた。
 その手紙を持って物見山の沼へ行った。
 教えられたように手を叩いたところ、若い女が出てきた。
 手紙を受けとると女は、
 「お礼です」
 と言って、てのひらに載る、小さな石臼をくれた。
 それは、米を一粒いれて回せば、下から黄金が出てくる石臼だった。
 この宝物の力で家は少しずつ裕福になった。
 ところが、あるとき欲の深い妻が一度にたくさんの米をつかみいれた。
 すると、石臼は、しきりにみずから回った。
 ついに、朝ごとに主人が石臼に供えていた水が溜まった小さな窪みに滑り落ちて、見えなくなってしまった。
 その水溜まりは、のちに池になり、いまも家のかたわらにある。
 家の名を池ノ端というのも、そのためだ。
                          (意訳)


                 宮古 on web
[PR]
by miyako_monogatari | 2009-02-08 18:52
<< ■ 腹帯ノ淵 ■ 淵の底の娘 >>