■ 淵の底の娘


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   閉伊川の流れには淵多く
   恐ろしき伝説少なからず
                「遠野物語」54

 ――川井の長者に奉公していた男の話だ。
 閉伊川の淵の上にある山で木を伐っていた。
 斧を、うっかり水のなかに落としてしまった。
 主人のものなので淵に入って探した。
 水の底に潜ってゆくにつれて物音が聞こえてくる。
 なんだろう?
 そう思って探った。
 岩のかげに家がある。
 奥のほうには美しい女がいた。
 女は機(はた)を織っている。
 その機の脚(あし)に斧が立てかけてあった。
 「斧を返してくれ」
 男が言う。
 すると女がふり返った。
 その顔を見て男は驚いた。
 二、三年前に死んだはずの、主人の娘だった。
 「斧は返します。
 でも、わたしがここにいたことを人に言ってはなりません。
 そのお礼に、身上がよくなり、奉公をしなくてもすむようにしてあげましょう」
 そのためかどうかはわからないけれど、男はそれから博打に勝ちつづけて金が貯まった。
 ほどなくして奉公をやめ、土地持ちの農民になった。
 そうこうするうち、この男、娘の言ったことを忘れてしまった。
 ある日、同じ淵のあたりを過ぎて町へ行く道みち、ふと娘のことを思いだした。
 連れだったものに、以前こんなことがあったと話した。
 やがて、噂は近郷に伝わった。
 男の昔の主人も噂を聞いた。
 なにを思ったか、いくつとなく桶に熱湯を入れて運び、その淵にそそぎいれたりした。
 けれど、なんの甲斐もなかった。
 そのころから男はだんだん貧乏になる。
 ついに、また昔の主人に奉公して暮らすようになった。
                          (意訳)


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by miyako_monogatari | 2009-02-08 16:34
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