■ シラヒゲのオキナ

a0115014_5443843.jpg

 いつのことかはわからない。
 閉伊川すじの村むらに、杖をついた見知らぬ老人があらわれた。
 あごには長くて白いヒゲをたくわえていた。
 シラヒゲの老人は、
 「洪水になるから早く逃げろ」
 と村から村へ知らせてまわった。
 村の人たちの多くは、
 「老いぼれのたわごとだ」
 と言って相手にしなかった。
 ところが、まもなく大洪水が起きた。
 シラヒゲの老人の言葉を信じて逃げた、わずかなものが生き残った。
 信じようともしなかったものの多くが死んだ。
 老人は笹の葉っぱに乗り、シラヒゲをなびかせながら激流のなかへと去った。
 生き残った村の人たちは、この老人のことを、シラヒゲのオキナ(翁)と呼んで噂しあった。
 閉伊川の洪水は、シラヒゲミズと呼ばれるようになった。

a0115014_2221679.jpg 上流で大雨が降ると、激しい流れが岩をかんで、白波が逆巻く。
 その白波を見ていると、ふっとシラヒゲのオキナのすがたが浮かんでくる。
 そんなふうに語る人は、いまでも少なくない。


                  宮古 on web
[PR]
by miyako_monogatari | 2009-02-08 14:35
<< ■ 淵の底の娘 ■ 閉伊川太郎 >>