■ 煙突山の沼


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 ラサの煙突の下には、沼が、ふたつある。
 ひとつは青沼。
 青く澄んでいる。
 もうひとつは赤沼。
 赤茶色に濁っている。
 沼には、それぞれ河童が住んでいる。
 その河童も沼が凍る冬には出てこない。
 スケートのうまい子は、そこで滑っている――
 だれに聞いたのか、そんな噂を知っていた。
 田んぼのスケートにあきたらなくなって、ある日、沼を探しにでかけた。
 凍(い)てついた南町の田んぼを突っきり、宮高のグラウンドも突っきって、八幡土手を登った。
 ゆらゆら揺れる吊り橋を渡った。
 小山田の土手を越え、そびえたつ精錬所の大煙突を見上げ見上げしながら、細い山道をたどった。
 たぶん、煙突の西がわだ。
 東がわだとラサの構内を抜けなければならない。
 とにかく山の上にのびる道をみつけ、分かれ道を、あっちへ行ったり、こっちに来たり。
 そのうち山かげに沼をみつけた。
 青沼なのか赤沼なのか、はっきりはわからない。
 でも、なんとなく、青沼だと思った。
 凍った沼は、冬の空の色を映して、白く見えた。
 人っ子ひとりいない。
 氷をたしかめると乗っても大丈夫そうだ。
 長靴にスケートをつけて滑った。
 へたくそで何度も尻餅をつく。
 靴スケートも、しょっちゅうはずれる。
 日暮れの気配に気づいて、あたりを見まわした。
 薄く曇った空のむこうに日がかたむき、沼はもう山の影におおわれている。
 冬は出ないはずの河童が、氷の下から出てきそうな気がした。
 靴スケートを手に、なにかにせかされるように山道をくだった。
 ふと立ち止まって、うしろをふり返った。
 沼は見えない。
 かわりに、夕暮れの空を黒く限った山の上に、点てんと細長い影が見えた。
 それは、いくつも並んだ、墓石だった。


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by miyako_monogatari | 2009-02-08 11:09
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