■ イタコ石

a0115014_2425410.jpg

 黒森神社をめざして、きつい参道を登る。
 やがて道はふた手に分かれる。
 かたわらに、柱に屋根をのせただけの小さなお堂がある。
 そこに60センチほどの背丈の石がまつられている。
 柱にはイタコ石としるした板が打ちつけられている。
 イタコは死んだものの口寄せをする女だ。

 昔むかしのことだ。
 どこからか、ひとりのイタコが山口の里にやってきた。
 黒森さんに登ろうとしたので村びとは止めた。
 黒森さんは女の登ることの許されない禁制のお山だった。
 それでも、なにか心に期するものがあったらしい。
 イタコは止めるのをふりきってお山に向かった。
 鬱蒼としてけわしい山道を、細い杖を頼りに、イタコは一歩一歩と登っていく。
 峠に出ると、銭をひとつひとつ足もとに置き、その上を踏んでイタコは、なおも登る。
 銭を置いて渡るのを銭橋(ぜにばし)といったらしい。
 こうすれば山の神の怒りにふれることはないとでもされていたのだろう。
 ところが、いつまでたってもイタコはお山から下りてこなかった。
 心配した村びとが探しにいった。
 すると、峠の山道に、ぽつんと揃えたように草履(ぞうり)だけが残っている。
 イタコのすがたは、どこにもなかった。
 ――やはり黒森さんの怒りにふれたのだ。
   大蛇に呑まれでもしたのだろう。
 そう言って村の衆は憐れんだ。
 それから、草履のかたわらに横たわっていた石を立てて、イタコの霊をまつった。
 石は、イタコ石とも結界石ともよばれた。
 のちに黒森神社は新しい社殿に移った。
 イタコ石も新しい参道のわきに移された。
 またのちの世になって、石は屋根をかけたほこらの下にまつられることになった。
 なにかを刻んだ文字は、長いあいだの雨や風に流れ、イタコ石のいわれだけが今に伝わっている。


                 宮古 on web
[PR]
by miyako_monogatari | 2009-02-07 12:33
<< ■ 黒森のオロチ ■ 狐の仕返し >>