■ 機織り滝


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 田代は川に沿った山里だ。
 山ひだに織りこまれたようにして、家いえの集まりが、ぽつんぽつんとある。
 そのなかに馬場(ばんば)という集落がある。
 田代川にかかる、馬場ノ滝という名を聞いたおぼえのある人もいるだろう。
 その少し上流に、もうひとつ、滝がある。
 馬場ノ滝より、少し小さい。
 よその人には、ほとんど知られていない。
 この小さい滝へ行くには、急な山道を登ったり降りたりしないといけない。
 草むらをかきわけて歩くしかない。
 道を探しだすのも、ひと苦労だ。
 まわりには木が、いっぱい生(お)がっている。
 昼間でも暗い。
 深い滝壺のなかは真っ暗だ。
 滝は高さよりも幅が広い。
 以前はもっと水かさがあった。
 いま岩肌が見えているところも流れに洗われていた。
 幅が広いから、まるで、機(はた)で白い布を織っているように見えた。
 水の落ちる音が、機を織るようにも聞こえた。

 昔むかしのことだ。
 機織りの好きな、ひとりの年若い女ごがいた。
 名を小菊といった。
 ある日、小菊は滝壺に身を投げた。
 岩の上に草履(ぞうり)が揃えてあった。
 着物が川面(かわも)に伸びた木の枝に引っかかっていた。
 体は浮いてこなかった。
 どういう理由で小菊が身を投げたのか、わけは村のだれにもわからなかった。
 村びとは、滝に菊の花たばをささげて、小菊の霊をとむらった。
 そのあと、滝から、機を織る音が聞こえてくるようになった。
 ぱたぁん しゅうっ
 ぱたぁん しゅうっ ……
 いつしか村の人たちは、この滝を機織り滝と呼ぶようになった。


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by miyako_monogatari | 2009-02-06 10:47
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