■ 海の六地蔵


a0115014_3502551.jpg むかし、伊勢という船頭がおりました。
 冬のある日のことです。
 日よりを見た伊勢は、タラ漁を休もうとしました。
 「もうすぐ荒れだすべぇ。
 いまは穏やかだぁども」
 すると、女房がなじります。
 「こんな天気のいい日に休むのすか?
 けえ(甲斐性)もねえ。
 ずぐ(意気地)もねえ」
 「なんだと!
 よ~す、はぁ……
 ほんだらば、やってみっか」
 伊勢は、船方たちを呼んで船を出しました。
 陸(おか)を離れるにつれて雲行きがあやしくなってきます。
 閉伊崎から西風が吹きだし、雪さえ舞いすさんできました。
 荒波に櫓や櫂もきかなくなり、船は波にもてあそばれるばかり。
 こうなっては、もう浜に戻ることはできません。
 運を天にまかせるしかありません。
 海の神さまに祈りながら励ましあう仲間たち。
 襲いくる波濤をかぶって体はずぶ濡れです。
 きびしい寒さに手足がしびれ、疲れも増してきます。
 そのうちに、ふっと気が遠くなって……

 伊勢は目を覚ましました。
 見おぼえのない男たちが顔をのぞきこんでいます。
 そして話を聞かされました。
 漂流して凍え死にそうになっていたこと。
 ほかの六人は死んだこと。
 命が助かったのは伊勢ばかり――
 ところが、助けた男たちは人買いでした。
 体が回復すると、たちまち売りとばされました。
 遠い国の、大きな鍛冶屋です。
 朝早くから夜遅くまで働かされました。
 そうして長い歳月が流れ去りました。
 ある日、伊勢が、お寺の鐘の吊り手を直していたときです。
 和尚さんが話しかけてきました。
 言葉が違うので、なにかいわく因縁がありそうだと。
 和尚さんは身の上を尋ねました。
 伊勢のふるさとでは、菩提をとむらっておりました。
 伊勢たちが船を出した日を命日とさだめて。
 ところが、ある日、家をたずねてきた旅の僧から、伊勢は生きていると知らされます。
 息子が僧といっしょに父をひきとりに旅立ちました。
 やがて伊勢は帰ってきました。
 生きてふたたび目にしようとは思わなかったふるさとに。
 それからほどなくして、伊勢は、六体のお地蔵さまをまつりました。
 海で死んだ仲間の霊をなぐさめるためです。
a0115014_3552528.jpg 海の見える小高い丘に、海の六地蔵は、いまも静かにたっています。
 そうして、嵐の日も、凪(なぎ)の日も、海原をみつめています。


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by miyako_monogatari | 2009-02-05 20:24
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