■ 山姥の最期


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 八幡さまのお祭りの日のことだ。
 佐羽根(さばね)のマタギが、賭け矢に熱中していて、時のたつのを忘れた。
 ふと気がつくと、女房が提灯を持って立っている。
 とっぷり日も暮れている。
 「おがすうな?」
 いままで迎えにきたことなどなかったのに――
 マタギは首をかしげながらも、いっしょに帰った。
 またも妙なことに、女房は提灯を持っているのに、マタギの後ろばかり歩く。
 「前を歩げ」
 マタギが何べん言っても、返事ばかりで前を歩こうとしない。
 小川の一本橋まできた。
 慣れた橋なので、月明かりを頼りに、マタギはすいすい渡った。
 振り返ると、いつもならそろりそろりと渡る女房が、きょうにかぎって、すいすい渡りはじめる。
 マタギは、これはニセモノだと気づいた。
 矢をつがえ、ひょうっと放った。
 胸を射ぬかれて提灯を手から落とした女房のニセモノが、みにくい婆にすがたを変えた。
 婆はそのまま川へ落ちた。
 山姥(やまんば)だ!――
 ニセモノは山姥が化けていたのだった。
 途端にマタギはぞっとした。
 山姥の怖さは昔から仲間内に言いつたえられている。
 山で長く生きてきたマタギほど、山姥を怖がるものだ。
 小川のなかで山姥が立ちあがろうとする。
 マタギは、あわてて駆けだす。
 家に帰ると、ほんものの女房とふたりで、家じゅうをかたく戸締まりした。
 しばらくして山姥がやってきた。
 「うぅ~、出ろ!
 うぅ~っ、出でこぉ!」
 マタギは山の神をまつってある神棚のまえで手を合わせた。
 祓(はら)えの呪文をとなえつづけた。
 一晩じゅう戸をたたきながらうめき、わめいていた山姥の声が、ぱたりとやんだ。
 つづいて、ドスンッと、なにか大きなものが地に落ちる響きがする。
 ちょうど鍋倉山の向こうから日の出るときだった。
 マタギは戸をあけてみた。
 山姥のすがたはどこにも見あたらない。
 このころ、山姥の洞窟の奥に咲いていた一輪の花が、血の色を失った。
 そうして、だれにも知られることなく散った。
 それから山姥のすがたを見るものは、だれもいなくなった。

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by miyako_monogatari | 2009-02-03 16:54
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