■ 糸巻き


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 昔むかし、松月浜(まっつきはま)の漁師の家に、機織(はたおり)の好きな妻がいた。
 ある日よりのいい日、妻は焚きつけをとりに鍋倉山のふもとまで行った。
 帰りの山道で、ぱったり山姥(やまんば)と出くわした。
 身にはボロを荒縄でゆわぎ、白髪をなびかせ、口が耳もとまで裂けているように見えた。
 妻は足がすくんでしまって、その場にしゃがみこんだ。
 すると、山姥が、だみ声で言った。
 「わしと会ったことは、だれさも話すな。
 それと、この糸巻きのことも、だれさも喋んな」
 山姥は、ふところから糸巻きをとりだした。
 そうして女にやると、そのまま鍋倉山のほうへ、すがたを消した。
 何日かあとのこと、妻が機を織っていた。
 気がついたら、戸のあいだから、山姥が、じっと見ている。
 それから、しばしば山姥が、のぞきにやってくるようになった。
 ふしぎなことに、山姥からもらった糸巻きは、使っても使っても糸が減らない。
 妻は、炉端話に、そのことを夫に喋ってしまった。
 つぎの日、漁師が起きてみると、妻がいない。
 村じゅう捜してもみつからない。
 機を見ると糸巻きがなくなっている。
 漁師は妻が山姥と出会ったと言っていた鍋倉山へ行ってみた。
 けわしい崖の中腹に段があって、むかしから山姥が住むといわれている岩穴がある。
 ふだんは怖(お)っかながって、だれも近づかない。
 漁師が登ってみると、黒ぐろ口をあけた岩穴のまえに妻が横たわっている。
 妻は、すでに息がなかった。
 漁師は妻を背負って村へ帰った。
 話を聞いた村の衆は驚いた。
 おとむらいをすませた晩げ、みんなが寄り集まって、山姥退治に出かけることに話が決まった。
 鍋倉山へ登って、みんなして岩穴のなかに何本も矢を射かけた。
 すると、なかから、ドドーッと天地の崩れるような音が響いてきた。
 しばらくして、松明(たいまつ)をかざして岩穴へ入った。
 なかは崩れたような跡もない。
 なお奥に進むと、そこには人のものらしい一体の骨だけが、白く残っている。
 山姥のすがたは、どこにもなかった。

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by miyako_monogatari | 2009-02-03 14:59
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