■ 山 姥


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 田代と田老をむすぶ街道の途中に佐羽根がある。
 その近くに鍋倉山がそびえている。
 けわしい岩山の中腹に段があって、洞窟がぽっかり口を開いている。
 そこには、山姥(やまんば)が住んでいた。
 山姥というのは、
 「大昔このへんにいたエミシ族の生き残りだ。
 だから人間に変わりはない」
 と言われる。
 「いやいや、あれはたしかに化けものだ。
 人間ではない」
 とも言われる。
 どちらがほんとうなのかはわからない。
 昔からいろいろに言い伝えられている。
 いくつかあげると、こんなふうだ。
 山姥の暮らす岩穴の奥には一輪の花が咲いている。
 その花は闇のなかで血の色に光っている。
 一年じゅう枯れることはない。
 いや、山姥とともにずっと昔から咲きつづけている。
 山姥は、ふしぎな糸巻きをもっている。
 使っても減らない糸巻きだ。
 ときどき里におりてきて、女が機(はた)を織るのをじっと見ている。
 そのくせ自分では機織をしない。
 いつも、ぼろぼろの着物を、縄で痩せた体にくくりつけている。
 白髪をなびかせ、真っ赤な口は耳もとまで裂けている。
 吊りあがった目、鋭い爪でつかみかかってくる。
 岩穴のあたりには蛇が、うじゃうじゃうごめいている。
 山姥はふだん、その蛇を食っている。
 岩穴に人が近づくと襲ってこれを食らう。
 佐羽根の人たちは岩穴を避けて谷向こうの山に道をつくった。
 それでもまだ岩穴の近くだから恐ろしい。
 行き来する人たちは、だれもが念仏をとなえながら足早に通った。
 いつしか山道は、念仏峠と呼ばれるようになった。

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by miyako_monogatari | 2009-02-03 14:48
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