■ 尾玉さまと姫さま


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 昔むかし、ベゴっこの尻っぽを伝ってあらわれたという長根寺の尾玉さま。
 こぶしほどの丸い毛の玉で、よく見ると、ひと筋、かすかな傷があるらしい。
 それには、こんな話が伝わっている。
 あるとき、盛岡の姫さまが正体不明の重い病にかかった。
 医者も祈祷師も、まるで役にたたない。
 見かねた家老が、殿さまのまえに、おそるおそる進みでて言った。
 「おそれながら、宮古の長根寺にまつる尾玉さまは、霊験あらたかと聞いております。
 これを召しまして、姫さまのご平癒を祈らせてみては、いかがかと――」
 藁にもすがりたい殿さまは、さっそく宮古へ早馬をたてた。
 長根寺の和尚は、みずから馬にまたがって、尾玉さまを不来方(こずかた)城へと捧持した。
 姫さまの部屋にもうけられた祭壇に尾玉さまを安置すると、道中の疲れをいやすまもなく読経を始める。
 まわりに控えた重臣たちは声もなく平伏している。
 和尚の誦経(ずきょう)に、静かに力がこもってゆく。
 「キェーッ!」
 しばらくたって、突如、病の床に横たわっていた姫さまが奇声を発した。
 人びとが驚いて見守るなか、姫さまは立ちあがる。
 瞳はあやしく光り、隈(くま)の浮いた青白い顔もすごみをおびている。
 姫さまは祭壇めがけて走り寄ると、安置してあった尾玉さまをつかんだ。
 「こんなものが、わらわの病をいやすかっ!」
 そう叫んで、やおら壁めがけて投げつけた。
 思いもよらない展開に一同、にわかに波立った。
 壁にあたって、尾玉さまに、かすかな傷が走った。
 そして、その傷から、一条の霊気がたちのぼった。
 和尚は読経しながら、しずしずと、畳にころがった尾玉さまに歩み寄る。
 両のたなごころに載せて眼前に捧げる。
 読経の声に一瞬、力がこもった。
 そのとたん、狂おしくわめいていた姫さまが、がくりと頭をたれて、くずおれた。
 心配した殿さまや奥方さまが見守るなか、やがて姫さまの顔に生気がよみがえっていく。
 病のおもざしは消え、温和な表情が満ちてゆく。
 満座は、ただ目をみはるばかり。
 奇異なできごとに、等しく狐につままれたような思いだった。
 和尚は額の汗をぬぐうと、平伏して言った。
 「おそれおおくも、姫さまのお体にとりつきましたる病魔、ただいま退散してござります」

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by miyako_monogatari | 2009-02-02 14:38
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