■ 津軽石


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 津軽石(つがるいし)っつう名まえは、妙なもんだ。
 南部(なんぶ)鼻曲がり鮭の本場だ、津軽石は。
 南部藩の領内だ。 
 北の津軽の国では、ねえ。
 それなぁのに、津軽石だぁの、津軽石川だぁのど……
 そう思ってだったぁども、これには、こんなわげが、あんだっつ
うがねんす。
 ――昔(むがす)むがすの、こったぁ。
 津軽石川は、べつの名まえの川だったそうだ。
 丸長川どが、渋留(しぶどめ)川どが、呼ばれでだんだあど。
 下流あたりは渋留っつう村だった。
 あるときの、こったぁ。
 旅のお坊さまが、北のほうがら、やってきた。
 北の津軽がら、石っこを、ひとぉづ、持ってきた。
 泊めてもらった家さ、お礼に、その石っこを、おいでった。
「なあどすべえ、こんなぁ石っこ……」
 家の人は、放題(ほうでえ)がなくて、その石っこを、家のまえ
の浅(あせ)え川さ、投げだんだ。
 そしたらす、驚ぐもなにも、あったぁもんで、ねえ。
 川さ、いっぺえ鮭っこが、のぼってきた。
 のんのんずいずいど、浅え川を埋めつくして、のぼってきた。
 とれでだんだぁよ、それまでも。
 それでもす、宮古川さ――いまの閉伊川さ、のぼってくる鮭っこ
の数には、とても及ばなかった。
 それが、その年の秋から、急に、いっぺえ、のぼってくるように
なったぁのす。
 村の人がどうは、考えだ。
「これぁ、お坊さまが持ってきた、津軽の石っこの、おかげに、ち
げえねえ」
「ありがてえ、津軽の石っこだ」
 それで、津軽石川と名まえを、かえたんだぁどさ。
「いやいや、旅のお坊さまが持ってきたんでは、ねえ。
 土地の領主さまが、持ってきたんだ。
 津軽の国の明神(みょうじん)さまがら、浅瀬石(あさせいし)
明神っつうどっがら、石っこを、もらってきたんだ」
 そんな話もある。
 やっぱり、それがら、いっぺえ鮭っこが、とれるようになった。
 やっぱり、津軽からもらってきた石っこのおかげだっつうんで、
津軽石と名まえを、かえだっつう話だ。
 恵比寿堂(えびすどう)のなかさ、いまでも大事に石っこは、ま
つられでる。
 それはす、ちっちゃけえ石っこでは、ねえ。
 とてもではねえが、旅のお坊さまが、ひとりで持ってこられるよ
うな石っこでは、ねえ。
 ひとかかえもある、でっけえ石だ。


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by miyako_monogatari | 2009-01-28 13:09
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