■ 長根寺の化け猫


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 宮古の町の西――
 舘合(たてあい)の峠(とうげ)を越えると、やがて、長根(ながね)の集落にさしかかる。
 右手の奥まったところに、長根寺(ちょうこんじ)がある。
 その長根寺での話だ。

 むかし、本堂の床下に、野良(のら)のトラ猫が一匹、すみついた。
 このトラ猫、大きく育って、悪事のかぎりを尽くすようになった。
 台所にあらわれて戸棚のなかを散らかす。
 鍋や釜のフタを落として中身をかたっぱしから食いあさる。
 ニワトリを襲う。
 裏山にひそんではキジを噛み殺す。
 冬はウサギをくわえて床下に隠す……
 殺生禁断(せっしょうきんだん)の寺に、生ぐさいにおいが絶えなかった。
 とともに、この大トラ猫、しだいに形相がすさまじくなる。
 まるで化け猫だ。
 住職は困りはてた。
 殺生禁断とはいえ、相手が化け猫では、しかたがない。
 ――退治しよう。
 そう、心を決めた。
 田鎖なにがしという、閉伊郡(へいぐん)きっての剣豪を招いた。
 手はずをととのえた。
 例によって台所の大鍋に頭を突っこんで盗み食いしていた化け猫を、十二畳の客間に誘いこむ。
 武芸者は抜き身をひっさげて化け猫に斬りかかる。
 化け猫は、きらめく刃(やいば)をかいくぐって逃げまわる。
 ときに恐ろしい爪と牙とで剣豪に襲いかかる。
 さすがの剣術の達人も、簡単に一刀両断とはいかなかった。
 いや、油断すれば顔や手足をひっかかれる。
 のど笛さえ噛み切られかねない。
 真剣に熱がこもる。
 激しい争いがつづいた。
 部屋の外では、ひたすら経を念じる住職――
 タァーッ!
 しばらくして、不意に裂ぱくの気合いが響いた。
 つづいて異様な叫びがあがった。
 ドタリッ!
 ものの落ちる音がした。
 あとは、しーんと静まりかえった。
 住職が戸をあける。
 息をはずませて立つ剣術使い。
 その足もとに、頭を斬りさかれた大トラ猫が横たわっている。
 住職は剣豪をねぎらった。
 それから客間を清めた。
 柱には、刀でえぐった傷や、化け猫の爪あとが残った。
 たたりを恐れ、化け猫を、ねんごろにとむらった。
 位牌(いはい)に、
「如是畜生菩提(にょぜちくしょうぼだい)」
 としるす。
 奥の壇にまつって、供養(くよう)を欠かさなかった。
 その位牌も、本堂もろとも火災にあって、いまはない。

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by miyako_monogatari | 2009-01-27 19:32
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